46歳女性。主訴は慢性的な頸部のつらさおよび全身倦怠感。
本人は自覚的には「うつではない」と述べており、現在の生活については「幸せである」と話していた。しかし、過去の人生についてはあまり良い経験ではなかったと語るものの、具体的な内容については詳しく話さなかった。
初診時には、頸肩部の強いこりと頭痛、全身のだるさがみられた。4回の治療後には肩こりおよび頭痛はほぼ消失し、本人も「体が非常に楽になった」と自覚していたため、症状はほぼ改善したと判断した。
しかし、その後突然患者から電話連絡があり、前日から体調が急激に悪化したとの訴えがあった。症状としては、突然強く泣き出してしまう、強い寒気を感じる、全身がつらいなどの状態であった。
再診時に脈診を行ったところ、心脈経絡に顕著な亢進がみられた。問診によりストレスの有無を確認したところ、患者は皿洗いをして立っている最中に突然強い不調を感じたと述べた。
さらに詳しく問診を進めると、精神的不安感があり、夜間の睡眠状態も不良であることが判明した。眠っても疲労感が取れず、熟睡感が得られない状態が続いていた。
背部兪穴の触診では、心、脾兪ツボは激痛、および心経に関連する部位に圧痛が認められた。以上の所見から、精神的不安を伴う軽度の抑うつ状態と判断した。
治療としては、精神を安定させる目的で漢方薬オイルを用い、併せて温石療法による温熱刺激を行った。
その結果、施術当日に症状は著しく改善し、精神的にも身体的にも安定した状態に回復した。
**うつ病**では、**本人が状態を認めること(自覚すること)**がとても重要だと言われています。理由はいくつかあります。
なぜうつを本人に自覚させたらいいという質問
治療に協力しやすくなる
本人が
「自分はストレスがある」「心が疲れている」
と理解すると、
- 治療を受ける
- 生活を変える
- 休養を取る
などに前向きになります。
感情を外に出せる
うつでは、感情を長く抑えていることがよくあります。
本人が認めると
- 話す
- 泣く
- 気持ちを表現する
ことができ、精神的な緊張が緩みます。
身体症状の原因が理解できる
うつでは、体の症状が多いです。
よくある症状
- 首こり
- 全身のだるさ
- 頭痛
- 不眠
- 胃の不調
原因がわからないと
「体の病気だ」と思い続けてしまいます。
原因が心のストレスだと理解すると、
治療の方向がはっきりします。
東洋医学の考え
東洋医学では、強いストレスや感情の抑圧は
- 肝気鬱結
- 心神不安
を起こすと考えます。
感情を認めて外に出すと、
気の流れが改善して症状が軽くなることがあります。
東洋医学的考察
今回の症例から、**うつ病**の状態は、単なる精神的問題ではなく、精神面と身体面が同時に影響し合いながら進行していくことが確認できた。
東洋医学では、このような状態を 心身一如 の観点から理解する。すなわち、心と身体は本来一体であり、精神的なストレスや感情の抑圧は、やがて身体症状として現れると考えられている。
本症例においても、患者は当初、肩こりや頭痛などの身体症状を主訴として来院した。施術によって身体症状は一旦改善したが、その後、突然の情動反応(強い涙や寒気)が出現した。これは、長期間抑えられていた感情や精神的緊張が表面化した可能性を示唆している。
つまり、患者が心理的に「現在は幸せである」と認識していたとしても、身体の内部には過去のストレスや緊張が依然として残存していたと考えられる。
そのため、精神面の理解や安定が得られたとしても、それだけでは身体の回復は十分とは言えない。身体に蓄積された緊張や不調に対しては、別途、身体的アプローチによる施術が必要である。
今回の症例を通じて、精神的ケアと身体的施術の双方を統合的に行うことが、うつ状態の改善において重要であることを改めて確認することができた。